ただ今、政略結婚中!
「な、なんなのっ!?あの人はっ」


嫌味な男だなんて思いもしなかった。


電話で冷たかったのは仕事が忙しかったからだと思っていた。


あの頃、私が面倒だった。ですって?そう思われていたなんて思いもよらなかった……。


あんな人と本当に結婚しちゃっていいの?


自分に問う。


でも、ここまで来たら結婚するしかない……パパの会社の為……憂鬱な気分で自分に言い聞かせた。


鏡を見ると、綺麗に塗られた口紅は跡形もなく、口の周りが少し赤くなっていた。


「もうっ!」


キスをさせてしまった自分が嫌になる。


クレンジングの瓶を乱暴に掴むと、キスの痕跡を消す作業に集中した。


落としていると、先ほどの美容のスタッフがやってきた。


訳知り顔でにっこり微笑み、私の手からコットンを奪う。


「そんなに強く拭いたら赤くなります」


私の口元にコットンを置いた彼女に言われ、顔から火が出るくらい恥ずかしくなった。





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