きみとぼくの、失われた時間

<01>日常化の畏怖



* * *

 

「坂本。あんたっ、マジで信じられない! なんで起こしてくれないわけ! ああっ、もう7時半とかっ…、化粧する暇もないじゃない!」
 
 
朝っぱらからケタタマシイ怒声が室内に響き渡った。
その音量はテレビの声を簡単に掻き消すほどのもの。

よって俺の耳はつんざきそうだった。

最悪を連呼しながら、バタバタと支度をしている秋本はリビングと洗面所を行ったり来たり。

折角俺が朝食をこしらえてやったっていうのに(ただ食パンを焼いただけだけど)、それさえ手をつけず時間に追われるがまま、身支度を済ませている。
 

なんで起こしてくれなかったのかと詰問されるけど、俺は何度も起こしたっつーの。
 

目覚ましまで掛けて、起床を手伝ったっつーのに起きなかったのはお前じゃないか。

人が何度、声を掛けてもスピースピーのグースカグースカ。

挙句、煩いと俺を突き飛ばアンド、蹴飛ばす始末。

マジでもう、こいつの寝相の悪さは10日間居候させてもらってよーく分かった。

真夜中、敷布団を跨いで何度俺を蹴っ飛ばしてきたか。

おかげで俺は何度目を覚ましたか。


顔に似合わず、悪魔な寝相だよ。
 

しかも今日、起きれなかったのは昨晩の秋本に原因がある。 
 

「頭重いっ!」洗面所から聞こえてくる嘆きに、

「だから言ったじゃんかよ」飲み過ぎだっつーの、彼女に憮然と言う。
 

昨日の秋本、仕事で一悶着あったのか、帰宅早々シャワーを浴びた後、買ってきたチューハイをかぶ飲みする勢いで始めるんだ。しかもすきっ腹で。


そりゃあ、すぐ酔うよな。
悪酔いするよな。
胃を壊すよな。


せめて飯と一緒に飲めっつったのに、「ちょっと聞いてよ!」から始まりの愚痴大会。

俺は午前様過ぎまで散々あいつの愚痴に付き合わされた末、酔って寝ちまった教師を寝室まで運ばされたという。 

「自業自得だってーの」

俺は何度も注意を促した、肩を竦めて秋本のトーストにバターをぬる。秋本がこれを食べないなら、居候人の俺が処理するしかない。
  
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