あたしの彼は『ヒドイ男』
「……もういい」
こんなに言ってるのに、ちっとも思い出してくれないなんて、やっぱりカズはヒドイ男だ。
私、愛されてないなぁ。
いじけながらソファーの上で膝を抱えて小さくなっていると、目の前に湯気の立つマグカップを差し出された。
覗きこむとその中には、私の大好きな、甘い桃の香りがするティーバッグ。
「あ、ありがとう……」
驚きながら受け取ると、
「別に、ついでだから」
なんて素っ気なく言って、自分は冷蔵庫から冷えたビールを出してきた。
ついで、なんて。
わざわざ私のためにお湯を沸かしてくれたクセに。
冷え性な私が少し寒くてソファーの上で膝を抱えているのに気付いてくれたんだ。
カップを持つ指先から伝わる温かさに、胸がきゅんとしてしまう。
「カズ、すき」
上半身裸のまま缶ビールに口を付けるカズに向かって好きとつぶやくと、
「あっそ」
ふっと息を吐いて小さく笑っただけで、流されてしまった。