あたしの彼は『ヒドイ男』


「……もういい」

こんなに言ってるのに、ちっとも思い出してくれないなんて、やっぱりカズはヒドイ男だ。
私、愛されてないなぁ。

いじけながらソファーの上で膝を抱えて小さくなっていると、目の前に湯気の立つマグカップを差し出された。
覗きこむとその中には、私の大好きな、甘い桃の香りがするティーバッグ。

「あ、ありがとう……」

驚きながら受け取ると、

「別に、ついでだから」

なんて素っ気なく言って、自分は冷蔵庫から冷えたビールを出してきた。

ついで、なんて。
わざわざ私のためにお湯を沸かしてくれたクセに。

冷え性な私が少し寒くてソファーの上で膝を抱えているのに気付いてくれたんだ。
カップを持つ指先から伝わる温かさに、胸がきゅんとしてしまう。

「カズ、すき」

上半身裸のまま缶ビールに口を付けるカズに向かって好きとつぶやくと、

「あっそ」

ふっと息を吐いて小さく笑っただけで、流されてしまった。

< 8 / 74 >

この作品をシェア

pagetop