あたしの彼は『ヒドイ男』

どうせカズは、十月十日に書かれた控え目なハートマークの意味を、覚えてもいないんだろうな。
なんだか悔しくて、ピンクのハートマークを見上げながら「ねぇカズ」と声をかけてみる。


「あ?」

「十月十日って、なんの日か覚えてる?」

「体育の日?」

「違うよー」


ほら、やっぱり覚えてない。

ムッとしながらカズのほうを振り向くと、彼はキッチンに立ったまま、換気扇の下で煙草を吸っていた。
上半身裸のままそんなところに立って、なにをしてるんだろう。
不思議に思ってカズの手元を覗き込むと、なぜかお湯を沸かしていた。


「あぁ、体育の日って、第二月曜とかに変更になったんだっけ?」

「もう、違うってば!」

「あれ、第三月曜?」

「第二月曜で合ってるけど。体育の日の話じゃなくて!」

「なんなんだよ」


見当はずれな返答に私が膨れっ面すると、カズは面倒くさそうに舌打ちをして、咥えていた煙草をキッチンの三角コーナーに投げ捨てた。

< 7 / 74 >

この作品をシェア

pagetop