あたしの彼は『ヒドイ男』
どうせカズは、十月十日に書かれた控え目なハートマークの意味を、覚えてもいないんだろうな。
なんだか悔しくて、ピンクのハートマークを見上げながら「ねぇカズ」と声をかけてみる。
「あ?」
「十月十日って、なんの日か覚えてる?」
「体育の日?」
「違うよー」
ほら、やっぱり覚えてない。
ムッとしながらカズのほうを振り向くと、彼はキッチンに立ったまま、換気扇の下で煙草を吸っていた。
上半身裸のままそんなところに立って、なにをしてるんだろう。
不思議に思ってカズの手元を覗き込むと、なぜかお湯を沸かしていた。
「あぁ、体育の日って、第二月曜とかに変更になったんだっけ?」
「もう、違うってば!」
「あれ、第三月曜?」
「第二月曜で合ってるけど。体育の日の話じゃなくて!」
「なんなんだよ」
見当はずれな返答に私が膨れっ面すると、カズは面倒くさそうに舌打ちをして、咥えていた煙草をキッチンの三角コーナーに投げ捨てた。