冷蔵庫の穴

10

冷蔵庫の前へもう一度立ちはだかる。

高鳴る鼓動を手でそっと撫で下ろす。

大丈夫、
あたしならできる。
できる子だ、

昔から要領の良い子だった。

ロールごとぶら下がった
ガムテープに変化はない。

おそるおそる
ガムテープに指を這わせてみる。
何も起こらない。

肝心の部分、
あの部分に

そっと

指先で円を描いてみた。

びくん。

一瞬わたしの体の外側から
何かが迫ってくる様な気配がした。
体には何も付いていない。

誰もいない。

今のは何だったんだ。

ソファで丸くなった猫を一撫でし
心を落ち着かせる。

そしてもう一度

あの部分に

手を伸ばす。

もう大丈夫だ。

今度は中心を押してみる、
本当なら鉄板だから押せないはずが、

なんと柔らかな感触である。

ここまで来たら
もう後ろには下がれない。

これが何なのか、

何者なのか、

確かめなければ。
< 10 / 20 >

この作品をシェア

pagetop