冷蔵庫の穴

グレーにガムテープを押し付ける、

人差し指の爪でうりうりと押し付ける。

景気良く剥がすと、

グレーは

白に変わっていた。


今度は白にガムテープを押し付ける、

人差し指の爪でうりうりと押し付ける。

親の仇と剥がすと、

白は

赤茶に変わっていた。


三度赤茶にガムテープを押し付ける、

人差し指の爪でうりうりと押し付ける。

人間失格と剥がすと、

赤茶は

・・・に変わっていた。


・・・っ、
言えないのである。

正確には色として
言葉で伝えられないのである。

敢て言うなら

『虚』

である。


あたしの想像だとここで
鉄板が出てくる予定だった。

しかし『虚』なのだ。

絶対もって塗料ではないのだ。
科学的に説明出来ないが、
これは何が何でも
塗っている物ではなく。

無いものが在るのである。

言い換えれば

在るものが無いのである。

鉄板が無いのである。


あたしは見てはいけないものを
見た気がして
心が吸い取られそうになり
慌ててガムテープで塞いでしまった。

千切る間もなく
20センチ程伸ばしたガムテープを
ロールごとぶら下げた。
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