ガリ勉くんに愛の手を
「あ、ありがとう。」

健二の顔が目の前にある。

少しずつ、その顔が近づいてきて…
うちは慌てて目をつぶった。

重なり合う唇。

いつものキスじゃない。

うちの魂までも吸いつくしてしまいそうなぐらい激しいキス。

(ああ、このまま…
健二に抱かれるんや……)

もうなんの迷いもない。

だって…
東京について来るって決めた時からうちは健二に全部捧げるつもりやった。

酔ってるせいか、まるで夢の中にいるような気分。

かすかに健二の手がうちの胸元にきているのだけが感じる。

抱かれるってこんな感じ?

全然怖くない。

好きな人やもん。

全然いやじゃない…

そのまま意識がなくなって行きそう…

でも、健二の手がうちの足にかかった瞬間、体が急にそれに反応した。

ピクッ、ピクッ

(あ、あかん。)

うちの脳裏によぎったのは…

あの時の事。

(い、いや…)

「佐奈?」

「い、いやーっ!」

うちは無意識に健二の腕をはらい落した。

「さ、佐奈。
お前どうしたんや?」

震える体…

健二は腫れものにでも触るかのように優しく肩を抱いてくれた。

「佐奈、怖いんか?」

「ううん、違う…
ごめん、違うねん。」

うちは、自分が情けなくて、健二に申し訳なくて涙が止まれへんかった。

うちはいつの間にか健二の腕の中で眠っていた。

健二はそんなうちを見てどう思ったかな?

(佐奈、お前…
大阪で何かあったんか?
それとも…)

健二は、寝ているうちに布団をかぶせて黙って部屋を出た。

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