ガリ勉くんに愛の手を
ちあきが部屋を出てから僕はすぐに服をまとった。

その最中にドアが開き、ちあきが顔をのぞかせた。

(ま、まずい…)

「勉君、あゆ美が忘れ物を取りに来たの。
あなたはここにいて、出てこなくていいからね。」

(えっ?!そんなぁ…)

あゆ美が来たと聞いて僕は期待をしたのに…

間もなく玄関のチャイムが鳴ってあゆ美が入ってきた。

僕はドア越しから二人の会話に耳を澄ました。

「ちあき、ごめんなさいね。」

「忘れ物って何?リビングには何もなかったわよ。」

ちあきはえらく不機嫌そうに答えた。

「あの~勉君は?」

「勉君?ああ、奥の部屋で演技の練習をしている最中なの。」

あゆ美はそれを確認すると、急に僕のいる部屋に向かって大きな声で叫んだ。

「勉君!出てらっしゃい。私と一緒に帰りましょう。」

その言葉に驚いたちあきは、

「あゆ美、あなた何を言ってるの?!
今日は私に任せるって言ったでしょ?」

僕は慌てて部屋から飛び出した。

僕の顔を見てほっとするあゆ美。

「ちあき、ごめんなさい。私が忘れて行ったのは勉君よ。
やっぱりこんな事よくないと思うの。」

「どういう意味?私のしている事が悪いって言うの?」

あゆ美は下を向いて黙りこんだ。

「あ、そう。わかったわ。あなたの好きにしなさい。
ただし、オーディションは諦めた方がいいわね。」

「わかってる。」

(あゆ美さん…?)

あゆ美は寂しそうな顔で小さくうなずいた。
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