ガリ勉くんに愛の手を
第12章 会いたい
[ゆがんだ愛情]
―ミナミの戎橋筋にある地下1階の小さなショットバー。
薄暗い店内には何組かのカップルと3人の女性グループ、そして隅の方で男の客が一人静かに座っていた。
その客は顔がすっぽり隠れるほど深々と帽子をかぶり、黒いサングラスをかけている。
まるで人目を避けるかのように……
それが返って他の客の目を引いたのか客がそっちをチラチラと見ながら話題にしていた。
「なぁ、あの人、緒方健二に似てない?」
女性客の一人がそう切り出すと、次第に他の客たちも騒ぎ出した。
「顔を隠してるところが怪しいよな。」
「今、東京におらんみたいやで。」
「ウソ?!」
「やっぱりあれが原因違う?」
次々と聞こえてくるその噂が彼の耳まで届いていた。
その瞬間、彼はすぐに席を立ち、店を出て行った。
バタンッ
彼女たちが話していた事は本当だった。
(俺が緒方健二やったらどないやねん?!
こんな時は有名人じゃない方がいいよな。
誰にも気づかれんようにしたつもりが、すぐバレてしまう。
ほっといて欲しいのに…)
健二はかなり飲んだようでおぼつかない足取りでフラフラとミナミの街へと消えて行った。
僕はホテルのまん前からタクシーに乗り込んだ。
運転手に行き先を告げると、少し嫌な顔をされた。
多分、あまりにも近距離で十分歩いていけると思ったに違いない。
でもあゆ美にタクシーを乗って行くように念を押されたんだ。
元の姿に戻っても一応は有名人だと言う事を忘れてはいけない。
もしもの事があっては絶対にいけないからだ。
車の中でさっき部屋を飛び出してエレベーターに乗った時の事を思い出した。
同じエレベーターに偶然撮影スタッフが乗り合わせた。
一瞬、顔を隠そうとしたが、壁に映る自分の顔を見て[大泉勉]でない事に気づいた。
もちろん、そのスタッフも僕の顔を見てもまったく気付かなかった。
人を騙して笑うのは失礼だが実に愉快な気分だ。
薄暗い店内には何組かのカップルと3人の女性グループ、そして隅の方で男の客が一人静かに座っていた。
その客は顔がすっぽり隠れるほど深々と帽子をかぶり、黒いサングラスをかけている。
まるで人目を避けるかのように……
それが返って他の客の目を引いたのか客がそっちをチラチラと見ながら話題にしていた。
「なぁ、あの人、緒方健二に似てない?」
女性客の一人がそう切り出すと、次第に他の客たちも騒ぎ出した。
「顔を隠してるところが怪しいよな。」
「今、東京におらんみたいやで。」
「ウソ?!」
「やっぱりあれが原因違う?」
次々と聞こえてくるその噂が彼の耳まで届いていた。
その瞬間、彼はすぐに席を立ち、店を出て行った。
バタンッ
彼女たちが話していた事は本当だった。
(俺が緒方健二やったらどないやねん?!
こんな時は有名人じゃない方がいいよな。
誰にも気づかれんようにしたつもりが、すぐバレてしまう。
ほっといて欲しいのに…)
健二はかなり飲んだようでおぼつかない足取りでフラフラとミナミの街へと消えて行った。
僕はホテルのまん前からタクシーに乗り込んだ。
運転手に行き先を告げると、少し嫌な顔をされた。
多分、あまりにも近距離で十分歩いていけると思ったに違いない。
でもあゆ美にタクシーを乗って行くように念を押されたんだ。
元の姿に戻っても一応は有名人だと言う事を忘れてはいけない。
もしもの事があっては絶対にいけないからだ。
車の中でさっき部屋を飛び出してエレベーターに乗った時の事を思い出した。
同じエレベーターに偶然撮影スタッフが乗り合わせた。
一瞬、顔を隠そうとしたが、壁に映る自分の顔を見て[大泉勉]でない事に気づいた。
もちろん、そのスタッフも僕の顔を見てもまったく気付かなかった。
人を騙して笑うのは失礼だが実に愉快な気分だ。