ガリ勉くんに愛の手を
― 待合室 ―

僕のイライラはもう限界に達していた。

その時、ようやくおじさんが診察室から出てきた。

さっきより少し表情が明るい。

「おっちゃん、どうでした?
佐奈さんは?」

「うん…なんとか間に合ったみたいや。
もうちょっと遅れてたらホンマにヤラれてた。」

深い意味はわからないがとにかく佐奈が助かってホッとした。

その後、佐奈はベッドに寝かされたまま病室へと運ばれて行った。

意識がないのに佐奈の顔は今でも怯えているように見えた。

「なあ、ベン、お前はそのまま帰れ。」

「どうして?僕もそばについています。」

「ベン、佐奈もああ見えてホンマは気弱い女の子や。
同じ年頃の男にこんな姿見られたくないやろ。」

(特にお前にはな。)

・・・・・・・

(おっちゃん、ひどいですよ。)

口には出さなかったが僕だってここから離れたくない。

でも、僕がいる事で佐奈が傷つくんなら……

(仕方ない。)

結局帰る事にした。


― 病室で ―

おじさんは寝ている佐奈のそばでずっと手を握りしめている。

「佐奈、怖かったやろ?
辛かったやろ?でも大丈夫やからな。」

言葉をつまらせながら意識のない佐奈に必死で呼びかけていた。

「ゆっくり休んで早く忘れるんや。
前みたいに元気な佐奈に戻ってや。」

(大丈夫や。
お前には俺もベンもついている…)

深い悲しみに包まれた夜は暗く長く続いた。
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