誓~天才演技者達の恋~
ユリアの中の何かが弾けとんだ。
「死ぬ?」
今までは、何か脳に衝撃を与えると、以前のことは忘れ去ってしまっていた。
でも今は違う。
脳に衝撃を与えた瞬間、今までの菊花ユリアが帰って来た。
修学旅行のことも、賢斗からのプロポーズも。
香織の養女では無いということも。
記者に追われている身だということも。
すべて鮮明に....。
「死ぬってどういうこと!?」
「知らなかったのか?」
「......嘘...よ」
ユリアは頭を抱える。
思い出そうとしても、前の自分は海の底にいる。
「白野...百合亜...」
「ユリア?」
名前を呼んでも何も起こらない。
頭痛さえ走らない。
「早く目を覚まして百合亜!!」
「ユリア?」
「あなたは、何を考えてるの?私じゃ分かんないの。分からない!!」
龍牙は黙ってユリアを見つめる。
卓也が言っていた。
『あいつはもう、記憶が戻る事は無い。
....戻っちゃいけないんだ...』と。
「ユリア」
「お願い。お願いだから...」
「ユリア...」
「白野百合亜に戻ってよ。戻してよ!!」
菊花ユリアは懸命に、白野百合亜に話しかける。
でも彼女は海底で、静かに目を閉じていた。
その顔はまるで、今から起こることすべてに恐怖を覚えている顔だった。