Pianissimo
01
五月の上旬。

桜が完全に散ってしまい、残った木はなんだか少し淋しそうだった。


夕焼けが綺麗に映った音楽室はあまりにも綺麗で、私はピアノの椅子に座り、その影をぼーっと眺めていた。

私は毎回、美樹が入っている美術部が終わるまで音楽室に入り浸る。

それが出来るのは、津々稀先生から了承を得ているからだ。


それにしても、音楽室は本当、落ち着く。

私はそっとピアノの鍵盤に触れた。

高くも低くもない音が部屋に響き、とても心地よい。

ピアノって、こんなに綺麗な音を出すんだなあ、と小さな感動。


私は、立ち上がって窓に一番近い席に座った。

少しだけ開いた窓から吹き込んでくる風が気持ち良い。

窓の外は言葉に表せないほど綺麗で、先生は、いつもこの風景を一人で眺めていたのを私は知ってる。



それはまだ部活が始まっていなかった頃。

下駄箱に向かう途中、必ず音楽室の前を通るからだ。

窓枠に手をかけて、外の風景を眺める先生の姿は、とても綺麗だと思った。

この気持が何なのかなんて分からないけど、先生の事、もっと知りたいとその時に思った。


その日以来、私はよく先生に話しかけるようになった。

先生も、そんな私に話しかけてくれるようになった。


先生。凄く苦しいよ。

…この気持は、何…?
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