Pianissimo
気付いてしまったら意識してしまうのはしょうがない。

それでも、胸の高まりや締め付けが治まる気配は無い。


「んー…」

もそっと先生の体が動き、ゆっくりと体を起こした。

目を擦る仕草。

視界がまだぼやけているのか無意識に細められる目。

くるんと丸まった寝癖。

その全てにドキドキして仕方がない。


「あー…神原。起きてたのか。起こしてくれりゃあよかったのに…」

「先生が気持ちよさそうに寝てるからですよー。先生こそ、何で起こしてくれなかったんですか?」

そう言うと先生は少し考えて、とんでもない事を口にした。

「神原の寝顔が可愛かった…から?」

「ッ…な、何で疑問形なんですか!」

やばいやばい。今絶対顔赤いと思う、私。

意地悪に笑う先生の笑顔にきゅんとした。

畜生、ときめき返せよ先生。

「いや、だってなあ。気持ちよさそうに寝てる所、起こしたら悪いだろ」

そう言って少し長い髪を耳にかけ、いつの間に風で飛ばされたのか、散乱しているプリントを拾って元の場所へ戻した。


「先生」

「んー?」

「…パーカー、ありがとうございました」

「おー。そこ、置いといて」

先生の言うとおりに机の上にパーカーを置く。

少し名残惜しさを感じた。


「先生」

「はいはい」

「何か弾いて下さいよ」

「…何かって、何だよ」

「先生が一番好きな曲が良いです。そうだ、歌いながら弾いて下さい!」

「はぁ…!? …ったく、しょうがねぇな…。寝るなよ」

そんなにゆっくりな曲なんですか。とは言わずに、黙って待っていた。


ピアノから紡がれる音色が部屋を満たす。

ピアノの音も、先生の声も、歌も、歌詞も全て美しく思った。



楽しそうに歌う先生の姿がどうしようもない程愛おしくて、今にも泣きそうだった。
< 5 / 11 >

この作品をシェア

pagetop