最後の恋
仕事中、デスクの上に置いてあるカレンダーを見つめながらふと思う。
ひとりぼっちで過ごした29歳のあの誕生日。
12月3日は人生で一番寂しい最悪な誕生日だった。
だけどその3日後にはあの六人での食事があって。夜のバッティングセンターで勢い任せに私達は付き合うことになった。
初めて2人でご飯を食べたのはその翌日で。
遊園地での初デートはその週末だった。
そして今日でちょうど、付き合って二週間が経とうとしている。
今でも不思議に思う。
椎名は本当に私でいいのかって。
30前だよ?私。
「松永さん、聞いて下さいよぅー」
カレンダーをボーッと見つめていたその時、後ろから聞こえた早川さんの声に思わずハッとした。
「どうしたの?」
くるっと振り返りながらそう聞くと、早川さんは携帯片手に私の方へ身を寄せてきた。
「椎名君、全然つれないんですよね」
「しっ、椎名、くん?」
「はい、あのランチ行った日からメールしたりしてるんですけど椎名君なかなか手強くて。脈なしですかね?私」
シュンとしたような顔で携帯を見つめる早川さんに、少し罪悪感を感じる。
椎名狙いは本気なのかな…
返す言葉に悩んでいると、早川さんは先にまた口を開いた。
「やっぱりグイグイ押すべきですか?最近草食系男子多いですし」
「うーん…どうだろうね」
押されても困る。
早川さん可愛いし、男はなんだかんだで押しには弱い。
付き合っていることを隠しているのに押されたら困るなんて思ってしまう私はかなり自分勝手だとは分かっている。
だけど困るものは困る。
私ももう…好きになっちゃってるんだもん。
この二週間のことを思い出すと、私は改めて自分の気持ちに気付いた。
付き合ってからは毎日の電話。
2日に一回は仕事の後も会っている。
先週末の二度目のデートは映画に行って日付けが変わるまで一緒にいた。
メールは毎日何度もくれる。
さっきも【今日夕方から雨降るみたい】とか、天気のお知らせみたいな内容のメールを送ってきていた。
そんなくだらない内容でも、一日に何度も送ってくれるマメなところは、私にはどれも新鮮だった。
早川さんのことは気になってはいたけど、それよりも今が楽しくて。
私は知らずのうちに浮かれていたのかもしれない。