最後の恋



仕事中だよね、サトルも。


時刻は午後2時。

仕事中に決まってる。


だけど、思わず押してしまった発信ボタン。


プルルルル…


三回。

三回鳴ったら切ろう。


プルルルル…


あと一回。早く切らなきゃ。


プルルルル…


「はい」


電話を切ろうと耳元から離したその時、小さく声が聞こえた。


ウソッ…出ちゃった?


「あっ、ごめん…仕事中だよね」

「うん、営業中。今ちょうど午後からの一件終わったとこだけど」

「そっか…」

「どした?何かあったのか?」


早く切らなきゃいけない。

いくらなんでも、頼る相手を間違っている。


「ううん、ごめん、何でもない」

「つーかお前、声掠れてるけど風邪?」

「えっ…あ…ううん、大丈夫」

「え、大丈夫ってやっぱり風邪なのか?」


電話の声を聞いただけで掠れてるとか風邪ひいたのかとか、言わなくても気付いてくれたサトルに正直びっくりした。


「熱は?」

「うん…今さっき39度ちょうどだった」

「39度⁉︎バカ!高熱じゃねーか!薬は?あるのか?」

「うん、飲んでる」

「あいつは?仕事中か?」

「…うん…多分…」

「えっ、もしかして熱出してること知らないのか?」

「…まぁ、そんな感じ…かな」


私がそう言うと、サトルははぁっとため息のような息を吐いた。


「飲み物は?」

「え?」

「イオン飲料とか飲んでるのか?つーか飲み物はちゃんと飲んでんのかよ?」


聞かれて気付いた。

そういえば…


「ははっ、昨日から飲むの忘れてた」


バカ過ぎて思わず笑ってしまう。


「バカ!何笑ってんだよ、飲み物口にしとかないと熱高いんだから脱水になるだろ!」


だけどサトルはそう言って私に怒った。

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