最後の恋



人生は、うまくいかないことの方が多いような気がした。


少しのタイミングでこんな風に気持ちがズレ合ってしまう。

そしてズレ始めた気持ちは、止まらなくなってしまっていた。



泣きながら携帯を取り出し、椎名のメモリを表示させた。


だけど…

神様はまた、意地悪をする。


震え出す携帯。

画面には、実家という文字と番号が映し出されていた。


「もしもし」

「あ、莉奈?今大丈夫?」

「…うん」

「日曜日ね、お父さんが駅前の魚千(うおせん)に行こうって言ってるんだけど予約しておいて大丈夫?晩ご飯、食べて行く時間あるかしら?」


お母さんの言葉を、目を閉じながら聞いていた。


「彼は和食は大丈夫?魚千なら場所も悪くないと思うんだけど」

「…うん。そうだね…」

「じゃあ予約しておくわね。お父さん何だか張り切っちゃってて。竜二も呼んだらどうだとか言いだしたんだけど、それはまた次の機会の方がいいわよね?」


嬉しそうに話すお母さんの声が、また胸をキュッと締め付けていく。


私は幸せにならなきゃいけない。


自分のためだけじゃない。お母さんのためにもお父さんのためにも…幸せにならなければいけないんだ。


「莉奈?」

「いいよ。お兄ちゃんも呼んでくれて」

「えっ?本当に?」

「うん…」

「あはっ、じゃあ後で竜二に電話しておくわ」



電話の向こうでお母さんが喜んでいる。

その光景が、頭に浮かんだ私は目を閉じたまま涙を流した。

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