【短編】咎(とが)
「そんなに様子が変なのか」

「部屋に篭りっきりよ。学校に行かなかった理由、話してくれないし……」

……、

両親の声を聞いているだけなのに。

ただ、それだけなのに。


なみだがこぼれた。


「何かあったのかな。……心配だな」

「そうね……」

ごめんなさい、パパ。わたしは、悪い子です。

ごめんなさい、ママ。わたしは、罪を犯しました。

どうか、どうか。

どうか、許してください。

わたしは、やっぱり、あなたたちの子供です。

だって、二人の声を聞いただけで。わたしのこと、心配してくれるだけで。

なみだが、なみだが溢れて、とまらなくて。申し訳なくて。

わたしは……。


「まあ、心配するだけ無駄かな」

……、え?

「そうよ。それより、例の塾に電話してみたんだけど、やっぱり試験を受けないと入れないそうよ」

……塾?

「うーん、昔ならいざ知らず、今の状態だと不安かな」

ねえ。

「塾に入りさえすれば、また勉強に集中できると思うのよね」

あなたたちは、なんの話をしているの?

「そうだな。いい高校に行って、いい大学に行ってもらわないとな」

ねえ。

「その後は、あたしたちを楽させてもらわなきゃねえ」

わたし、人を殺したんだよ?

「ねえママー!ご飯まだー?」

「あ、ごめんねリュウ君、今行くわー」

無邪気な弟の声。ドアから、両親が簡単に、引き剥がされてしまう。

わたしに「ご飯できたよ」の声もかけずに。

二人揃って、階段を下りていく音。
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