【短編】咎(とが)
わたしは、暗闇の中、たったひとりで。

家の中に、他の人間はいるんだけど、それでも、たったひとりで。


わたしは、なに?

わたしは、心配されていない?

わたしは、気にしてもらえない?

わたしは、助けてもらえない?

わたしは、必要とされていない?


闇という名の黒い監獄、その中で。

爛々と光る、真っ赤な二つの球。

初めて見た時は、あんなに怖かったのに。

今はもう、この暗黒の世界で、わたしにとって、唯一の光。そう思えて。

「ヨウ。ナカナカ、シンドソウジャネエカ」

除消は、音もなく、わたしの部屋に入ってきていた。

「実ハヨ、チト、相談ガアルンダガヨ……」

申し訳なさそうに話を切ってはいるけど。絶対、そんな風には微塵も思っていなくて。

私のことなんか全然興味なくて。どうでもよくて。自分のことしか考えてなくて。

でも。

「マダマダ、オマエノ咎ガ足リナクテヨ……。俺、帰レネンダワ」

でも、そんな除消の言葉が、なぜか、ひどく、ありがたく思えて。

「モウ少シ、暴レテクレネエカ。……オタガイノ為ニ、ヨ」

価値の無い自分。たったひとりで、咎を負い、地獄に堕ちなければならない自分。

でも、そんなわたしでも、除消にとっては必要で。

そうだ。

もう、堕ちるところは、決まっているんだった。

いまさら、何を怯えていたんだろう。

わたしは、人を、殺した?

違う。

わたしは、消しただけ。

書き損なった字を、気に入らない絵を、みばえの悪い汚れを、消しただけ。

はじめから、存在していなかった。そんな物はなかった。そんな人はいなかった。

わたしは、なにを、躊躇っているんだろう?

わたしの体の中で、なにか、ピンと張り詰めていた、なにかが、……はじけた。

「ねえ、除消」

「アン?」

「あなた一体、どれだけの借金を背負っているの?」

「……天文学的ナ額、ダ」

「……すごく弱いんだね、博打」


常闇の世界で、わたしと除消は、ふたりで、笑った。
< 27 / 47 >

この作品をシェア

pagetop