【短編】咎(とが)
わたしは、暗闇の中、たったひとりで。
家の中に、他の人間はいるんだけど、それでも、たったひとりで。
わたしは、なに?
わたしは、心配されていない?
わたしは、気にしてもらえない?
わたしは、助けてもらえない?
わたしは、必要とされていない?
闇という名の黒い監獄、その中で。
爛々と光る、真っ赤な二つの球。
初めて見た時は、あんなに怖かったのに。
今はもう、この暗黒の世界で、わたしにとって、唯一の光。そう思えて。
「ヨウ。ナカナカ、シンドソウジャネエカ」
除消は、音もなく、わたしの部屋に入ってきていた。
「実ハヨ、チト、相談ガアルンダガヨ……」
申し訳なさそうに話を切ってはいるけど。絶対、そんな風には微塵も思っていなくて。
私のことなんか全然興味なくて。どうでもよくて。自分のことしか考えてなくて。
でも。
「マダマダ、オマエノ咎ガ足リナクテヨ……。俺、帰レネンダワ」
でも、そんな除消の言葉が、なぜか、ひどく、ありがたく思えて。
「モウ少シ、暴レテクレネエカ。……オタガイノ為ニ、ヨ」
価値の無い自分。たったひとりで、咎を負い、地獄に堕ちなければならない自分。
でも、そんなわたしでも、除消にとっては必要で。
そうだ。
もう、堕ちるところは、決まっているんだった。
いまさら、何を怯えていたんだろう。
わたしは、人を、殺した?
違う。
わたしは、消しただけ。
書き損なった字を、気に入らない絵を、みばえの悪い汚れを、消しただけ。
はじめから、存在していなかった。そんな物はなかった。そんな人はいなかった。
わたしは、なにを、躊躇っているんだろう?
わたしの体の中で、なにか、ピンと張り詰めていた、なにかが、……はじけた。
「ねえ、除消」
「アン?」
「あなた一体、どれだけの借金を背負っているの?」
「……天文学的ナ額、ダ」
「……すごく弱いんだね、博打」
常闇の世界で、わたしと除消は、ふたりで、笑った。
家の中に、他の人間はいるんだけど、それでも、たったひとりで。
わたしは、なに?
わたしは、心配されていない?
わたしは、気にしてもらえない?
わたしは、助けてもらえない?
わたしは、必要とされていない?
闇という名の黒い監獄、その中で。
爛々と光る、真っ赤な二つの球。
初めて見た時は、あんなに怖かったのに。
今はもう、この暗黒の世界で、わたしにとって、唯一の光。そう思えて。
「ヨウ。ナカナカ、シンドソウジャネエカ」
除消は、音もなく、わたしの部屋に入ってきていた。
「実ハヨ、チト、相談ガアルンダガヨ……」
申し訳なさそうに話を切ってはいるけど。絶対、そんな風には微塵も思っていなくて。
私のことなんか全然興味なくて。どうでもよくて。自分のことしか考えてなくて。
でも。
「マダマダ、オマエノ咎ガ足リナクテヨ……。俺、帰レネンダワ」
でも、そんな除消の言葉が、なぜか、ひどく、ありがたく思えて。
「モウ少シ、暴レテクレネエカ。……オタガイノ為ニ、ヨ」
価値の無い自分。たったひとりで、咎を負い、地獄に堕ちなければならない自分。
でも、そんなわたしでも、除消にとっては必要で。
そうだ。
もう、堕ちるところは、決まっているんだった。
いまさら、何を怯えていたんだろう。
わたしは、人を、殺した?
違う。
わたしは、消しただけ。
書き損なった字を、気に入らない絵を、みばえの悪い汚れを、消しただけ。
はじめから、存在していなかった。そんな物はなかった。そんな人はいなかった。
わたしは、なにを、躊躇っているんだろう?
わたしの体の中で、なにか、ピンと張り詰めていた、なにかが、……はじけた。
「ねえ、除消」
「アン?」
「あなた一体、どれだけの借金を背負っているの?」
「……天文学的ナ額、ダ」
「……すごく弱いんだね、博打」
常闇の世界で、わたしと除消は、ふたりで、笑った。