【短編】咎(とが)
参(さん)
朝。新しい朝。いつもの朝。まぶしい朝。爽やかな朝。

毎日、毎日、朝が来て。いつも、いつも、違う朝が来て。

今日、朝、目が覚めたら。久しぶりに、「色」がみえた。

あざやかな、若緑色だった。


「昨日の無断欠勤の理由を、簡潔に述べなさい」

登校してすぐ、職員室に呼び出されて。

担任の男性教員から、くどくど、くどくど、文句を言われた。

この人、誰から見てもやる気がないくせに。

ちょっとワルぶっている男子生徒に、注意の一つも出来ないくせに。

わたしに対しては、いつも、やけに強気。

生活態度がどうたら。授業態度がどうたら。このままじゃ来年の受験がどうたら。

どうたら。どうたら。

もう、どうでもいいよ。

ていうか、あなた、もう、いいよ。

「除消、これ、消して」

ごしごしごし。


教室に戻ると、すでにホームルームが始まっていて。

教壇には、あまり見覚えのない、中年の男性教員が立っていて。確か、音楽の教員だったような。

当たり前のように、その人が出席を取って。当たり前のように、ホームルームが終わって。

その後も、いつも通り、授業が始まり、進んでいく。

誰も気づかない。担任の教員が消えたのに。

担任が代わっているのに。誰も気づかない。

わたしだけが気づいている。わたしだけが知っている。わたしだけが分かっている。

わたしだけ。わたしだけ。

……?

なんだろ、これ。

この気持ち。

嬉しくて、ふわふわしていて、むずむずして、くすぐったくて。

ああ、これたぶん、恍惚感、ってやつだ。

わたしは、ひとり、こっそり、笑った。


3時間目が終わって、次は家庭科。

移動しようと思ったら、もう他の人たちは教室から出ていて。

教室の電気を消そうとしている委員長の女子が、イライラした様子で、わたしを見てて。

そういえば。

わたし、前からあの人のこと、嫌いだった。

なんか偉そうで。五月蝿くて。仕切りたがり屋で。

一昨日だったか、

「あなたって本当に、存在感無いね」

なんて、余計なこと言ってくれて。

「除消、あれ消して」

ごしごしごし。
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