恋した鬼姫
3日目の朝にセラが秘密の部屋に行くと部屋には男は、見当たらず、前の日の夜に持ってきていた食べ物だけは綺麗になくなっていた。

セラは、きっと男が目を覚まして出ていったのだと思い、内心ホッとしていた。男が気づいた時に、また刃物を突きつけられるのではないかと心配だったのだ。


セラが鬼の国に戻ろうとした時、部屋の襖が開いた。


刃物をむけてきた男がそこにいた。セラは、後退りになり警戒した。

「お前が手当てしてくれたんだろ?感謝するぜ。」

セラは、キョトンとなった。急に刃物をむけてきた怖いはずの男なのに、お礼を言われるとは思っていなかったからだ。

「…。」
しかし、セラは元々口数が少ないため、何を言ったらいいかわからず、黙ったまま固まっていた。

「命の恩人に何もしない。だから、そんなにあからさまに警戒するな。」

男は、そう言うと座り、持っていた刃物を目の前においた。

セラは、それを見ると静かに座った。

「初対面で失礼だか、お前なんで布を被ってるんだ?」

「…私は、セラと申します。」
セラは小さな声で言った。

「あっ、すまん!言えない事情があるようだな。名を聞かずに失礼した。俺の名は、虎(とら)だ。」
男は、ニカッと笑った。その笑みに、セラも気持ちが少し落ち着いた。

セラは、ふと虎の頭の上を見てハッとした。手当てをしている時は、それどころではなかったので気づかなく、セラは自分以外に角がついていない鬼を見たのは初めてだった。



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