恋した鬼姫
「さぁ、今日から俺達は町から町へ移動する旅芸人だ!」
喜助は、嬉しそうに出発しようとしたが、セラはこんな格好で久しぶりに虎に会うのが、嫌で仕方なかった。
セラが不満そうな顔をしていることに、喜助は気づいた。
「しょうがないだろ。あんたの見た目は、目立つんだから。ここまでしないと、里まで無事に着くかわからないし。」

「そうだったのですね。喜助さんの考え合ってのことなのですね。」
セラは、そう言うと喜助の顔を見たが、喜助は明らかに笑いを堪えていた。セラは、喜助が面白がってやっているのではと、微妙に疑った。

そして、セラは喜助と共に旅に出た。
お婆さんの家は、もう見えなくなったが、お婆さんの家の方から、微かだが馬の鳴き声が聞こえた。
喜助は、少しセラに急ぐように言うと、足早に進んだ。



その頃。
殿様は、家来達と共にお婆さんの家にたどり着いていた。
殿様は、急いで馬から降りると家の戸を開けた。
中に入ると入り口の近くには、セラが着ていたと思われる着物が脱ぎ捨ていた。

「これは、やはり来ていたか。…まだ温かい!そう遠くには逃げてはいないな。」

外に出るなり殿様は、家来達にセラを追うように、命じた。


家来達は、馬を走らせたが、森を抜けども、山を抜けども、セラと出くわすことが出来なかった。
殿様は、考えた。
いくら何でもセラを連れて、そう遠くに行けるわけがない。もしや、セラを拐ったのは、忍者ではないかと。忍者なら、抜け道を使うからだ。

「そうか!では、目には目をじゃ!」
そう言うと殿様は、城に使えている忍者達を呼び寄せた。殆どは、戦で活躍をしているが、人探しを殿様から命じられるのは、初めてだった。それも、女を。忍者達は半ば驚いていた。

殿様は、セラがいなくなり、更に凶悪な殿様になっていた。日々、セラが見つからないことを聞く度に、牢屋にいる罪人に鞭を入れ、憂さ晴らしをしていた。
侍達は、なるべく殿様の機嫌を悪くしないようにと、いつも以上に貢ぎ物などを続けた。

そんな殿様の噂は、町中だけでなく、あちこちで広まっていた。



セラの耳にも、その噂は届いていた。
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