恋した鬼姫
喜助は、黙ったままセラが大事にしていた木箱を懐から出した。
それを見た虎は、いきなり喜助に掴みかかった。

「どういうことだ!なぜ、お前がそれを持っている!セラは、どこだ!」

虎の迫力を目の当たりにしても、喜助の顔はまるで精神が抜けたような面になっていた。

そして、喜助はポツリと呟いた。
「お頭が悪いんだ。何が家族だ。」

虎は、何が何だか理解出来なかった。
「俺がセラに何かしたと言うのか?」

「あぁ、沢山したよ。セラは、お頭に惚れてた。だけど、お頭は、セラの気持ちも知らないで、家族だからと言って、自分の近くにセラを居させといて、他の女を家に連れ込んで遊んでるだろ。俺は、見たよ。今日、綺麗にめかし込んでるセラを、遠くの方でお頭を見つけるなり、お頭目掛けて走っている姿を。だけど、突然セラの足は止まった。言わなくても何でか、お頭なら分かるはずだぜ。」

喜助は、そう言うと里の中へと戻って行った。


虎は、混乱していた。確かに思い返せば、セラの行動とつじつまがあう。しかし、どんなに沢山の女がいようと、虎は本気になったことは、なかった。だから、実際には恋の経験なんて虎には、無いのだ。

虎は、屋敷に戻り、縁側に座ると、今までのことを思い出していた。

虎は、セラとの思い出や声や顔を全部思い出しながら考えると段々胸が締め付けられる気持ちにかられた。
そして、妹として大切なんだと思い込んでいたことに気づき、初めて会った時から一人の女として想っていたことに気づいた。
虎は、自分の気持ちに気づくなり、今すぐにでもセラを抱き締めたくてたまらなくなった。

虎は、急いで荷物をまとめると、セラを追いかけて旅立った。


喜助は、遠くからその姿を見ていた。
左手には、セラの木箱を強く握りしめて。



虎は、セラとの思い出の場所に向かうことにした。今更かも知れないが、絶対にセラは、初めて出会ったあの神社に向かっている気がした。
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