恋した鬼姫
一晩セラと過ごしていたが、虎はセラへ気持ちを伝えることは出来なかった。
しかし、一晩中二人は寄り添い、それはとても幸せな一時だった。

翌朝、セラと虎は海へ出発しようとしていた。
神社から出ると、喜助が立っていた。
喜助は、二人が出てきた途端に、慌てて虎に駆け寄った。

「大変だ!我々の里に城の侍達が押し寄せて来て、女達が連れて行かれてしまった!男達も傷が深く、なんとか俺だけが逃げ出すことが出来たんだ!」
虎もセラも、驚いた。

「…私のせいですわ。」セラは、思い詰めた顔で言った。

「お前のせいではない。必ず、俺達が里の女達を助け出す。セラは、先に海へ向かっていてくれないか。必ず、俺も後から追う。」

セラは、泣きながら首を振った。セラは、もう虎から離れることが嫌だった。そして、自分も一緒に行くと聞かなかった。

「必ず俺は、セラの元へ戻ってくる。信じて待っていてくれ。もう二度と離れない。」
虎は、そう言うとセラを強く抱き締めた。

何気にそれを見ていた喜助は、目を背けた。


セラは、泣きながら虎を見送った。

そして、ゆっくりと海がある方へ向かって歩き出した。

虎との約束だけを信じ、虎が必ず戻って来てくれると信じ、セラは一歩一歩と前へ進んだ。


虎と喜助は、城の裏手にたどり着くと喜助の案内で、女達が捕まっている場所へ行った。


不思議な事に、城の中は静かだった。虎は、変に思ったが、そのまま喜助に着いて行った。

喜助が急に立ち止まった。

「おいっ、どうしたんだ!女達は、何処に捕まってるんだ!」
虎は、辺りを見渡しても何もない広間だった。

喜助は、振り向きもしないで黙っていた。

その時、建物の上から声がした。
「よくやった、喜助!」

虎が見上げると、そこにはなんと殿様の姿があった。
そして、隣には人間の国にいる筈もない角を付けた鬼の姿もあった。

虎の周りには、弓矢を持った侍達が虎を囲った。

「どういうことだ!喜助?!」

虎が喜助の方を見ると、喜助は虎の方を見て口を開いた。

「あんたには、絶対にセラを渡さない。」

喜助は、虎を裏切った。
< 49 / 71 >

この作品をシェア

pagetop