木漏れ日から見詰めて
 菓子パンを押し込むように飲み込むと胸に激痛が走った。

 どんなものを食べても砂を食べているようなジャリジャリとした不快な食感しか伝わってこない。

 味覚を完全に失った。

 雨が上がり、露をのせた葉がキラキラ輝いていた。

 木々には生き生きとした緑が眩いている。

 最期に一瞬でいいから正面を向いた彼の顔が見たいという欲が出た。

 秋が深まり、枯れて葉が落ちればもっとはっきり彼が見えるのにそれまで私は持ちそうにない。

 そろそろ彼の授業がはじまる。

 待ち焦がれていた時間。

 間もなくすると彼の頭が見えた。

 今日は寝坊したのか後ろ髪がぴょんと跳ね上がっている。

 強い風が吹き、木漏れ日が大きく揺れた。

 目の前の葉が吹き飛ばされ、彼の顔がはっきり見えているはずなのに涙で歪んでよく見えない。

 けれど、私の心は満たされた。

 彼が生徒ひとりひとりの机の上にプリントを置いていく。

 テストだろうか?

 不意に彼が振り向いて私と目を合わせたような気がした。

 
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