償いノ真夏─Lost Child─

そんな生活を送っていたある日、決定的な事件が起きた。

真郷が家に帰ると、珍しく玄関の鍵が空いていた。

散乱した男物の靴、むせかえる香水の匂い。

母が男を家に上げている。父と住むこの家に。


“これは父を裏切る行為”

真郷は初めて、母に対して怒りを覚えた。

鞄を投げ出すと、一目散にその部屋を目指す。

生臭く、醜悪で、淫靡な。

寝室の扉を開けたときの、母の顔を忘れない。あれは、まさしく女の顔だった。


「出てけよ」


裸のままベッドから見つめている、母の横に居る男を睨む。

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