償いノ真夏─Lost Child─



気が付くと真郷は、隣町の診療所にいた。傍らには父がいて、手を握ってくれていた。
真郷が目を覚ましたのに気が付くと、安堵したように笑顔を見せた。

「真郷、わかるか?もう大丈夫だからな」

「父さん……」

「おばあちゃんから連絡があったんだ。神社で倒れていたんだぞ、お前」

「神社……」

言われて、真郷は飛び起きた。やはり夢ではなかったのだ。

「死体は?死体はどうなったの?あったんでしょう、女の人の……!警察に言わないと」

尋常ではない真郷の様子に、父は首を傾げた。

「死体?なんの話だ?……まだ寝ぼけてるのか?」

「違うよ!俺、死体を見たんだ。九郎を追いかけてて……」

「落ち着け、真郷。倒れたお前を村の人たちが見つけてくれたんだ。その人たちは何も言ってなかったぞ。暑さにやられて夢でも見たんだろう。お前、九郎のことばかり言っていたからな」

「夢……」

そんなはずない、と言おうとしたが、父の言葉がそれを遮った。

「──忘れなさい」


有無を言わさない父の態度に、真郷は驚いた。それと同時に、父の背後から差していた夕陽が翳り、病室を闇が包んだ。

そんな中、父は遠くに見える夜叉淵の灯りを見た。

「祭が、始まるな」

それは同時に、小夜子との決別を意味していた。もう、村へ戻るバスも、村を出るバスもない。闇夜と共に、ふたたび村は閉ざされる。

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