償いノ真夏─Lost Child─



冷たい石の床の上で、夏哉は横たわっていた。
彼は小夜子を逃がす際、猟銃を構えた男をエアーガンで撃った。その際、偶然にもその弾は男の左目に命中してしまった。

それから取り押さえられ、巫女を逃がした罪で幽閉され、村人たちによって暴行され続けた。体中が痛む。顔が腫れてしまったらしく視界も狭い。

そんな状況でも、彼は小夜子の無事だけを願っていた。
朝陽が差しこんでいるといことは、きっともう、東京に着いたはずだ。

しばらくすると、人の気配を感じた。だが、誰か確かめる気力もない。どうせ村人か村長が、憂さ晴らしにでも戻ってきたのだろう。

そう思って目を閉じた夏哉に、ひんやりとした手が触れた。

「ナツ……!」

その声に、夏哉は驚いて目を開けた。狭くぼやけた視界の中に、よく知った少女がいた。

「姉さん……!?」

身体を起こそうとすると、全身を激痛が駆け巡った。顔を歪める夏哉を、小夜子が優しく抱きしめる。

「生きていてくれて良かった……!ごめんね、こんな、こんなひどい怪我……」

「姉さん……どうしてこんなところにいるんだ?真郷は──」

身体を離すと、小夜子は首を振った。

「そんな……!何かの間違いだ!あいつが姉さんを裏切るわけ……」

そう言いかけて、小夜子の身体の異常に気が付く。
オシルシ──身体を覆っていた痣が消えた代わりに、その白い肌には無数の紅い跡が刻まれていた。

「ナツ……私、よごれちゃった……こんな女、真郷くんは迎えになんて来てくれるわけない……」

「あ……」

小夜子に掛ける言葉がなかった。彼女は逃亡に失敗し、そして、大切なものを失ったのだ。
そんな彼女を、痛みもわすれて、夏哉は抱きしめた。小夜子は、その胸の中で声を上げて泣いた。



その日、姉の小夜子が巫女の任を全うした恩赦として、夏哉は拘束を解かれた。


同日、堀川村長の娘、美那江が亡くなったと知った。

──その因果の意味を、二人はまだ知らない。









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