償いノ真夏─Lost Child─
*
夕食の時、真郷はこう切り出した。
「犬、飼いたいんだけど」
祖母と母が、箸を止めて真郷を見た。
「急に、どうしたの?」
「今日拾ったんだよ。雨の中で捨てられてた仔犬。今、俺の部屋にいるんだけど」
「──まぁ。お母さん、どうしましょう」
母が、慌てたように祖母を呼んだ。
祖母はじっと真郷を見た後、再び箸を動かし始めた。
「──飼えばよかろ。犬の一匹や二匹くらい」
あっさりと、祖母は許可した。
一番驚いたのは真郷自身に違いないが、母も驚いているようだった。
「ありがとう、おばあちゃん」
祖母は鼻を鳴らし、続けた。
「そのかわり、離れでお飼い。犬の鳴き声は年寄りの耳には煩くてかなわん」
「うん、わかった」
祖母はそれだけ言うと、後はいつも通り、むっつりと黙ったままだった。
母は、真郷が我が儘を言ったのが嬉しいようで、異を唱えることもなかった。