償いノ真夏─Lost Child─
かつて無いまでの戦慄が、背筋を駆け巡った。
朝霧。
朝霧、夏哉。
それは紛れもなく、彼の姓を指していた。
だったら何だというのか。
襖に向かって、仔犬が吠えている。
「母さん、何が言いたいの……」
目の下がひくついている。気持ちが悪い。
襖の向こうの母は、何を考えている?
真郷は立ち上がると、襖に手をかけた。
どくどく、心臓は鳴り止まない。
「母さん?」
襖を開けると、そこには母の姿はなく。
目の前には汚れた土壁があるのみだった。
いつの間にか、仔犬も吠えるのを止めて夏哉の使用していた座蒲団の上で丸くなっている。