償いノ真夏─Lost Child─


とはいえ、特に欲しい景品など決めていなかったので、真郷は眉を寄せた。

「真郷くんは、なに狙ってるの?」

問い掛けてきた小夜子を見て、真郷は苦笑した。

「迷ってた。そうだな……小夜子ちゃんは、何か欲しいのある?」

「え?えっと……」

小夜子は景品に目線を移す。それから、クマのぬいぐるみを指差した。

「あれ、可愛い」

フワフワとした毛に、首に付けた赤いリボン、ちょこんとした出で立ちが確かに可愛らしい。

「──了解」

真郷は射的自体が初めての体験だったが、夏哉の様子を見ていて、何となくやり方は理解できていた。

クマに狙いを定めると、引き金を引く。



結果は、クマのほんの少し横を掠めて外れてしまった。

「おじさん、もう一回」

200円を手渡し、もう一度やってみる。

コツさえ掴めば、取れないものでもない。

──パシッ!

今度は、クマの頭に命中した。

ぐらり。

後ろに倒れたクマを見て、夏哉と小夜子があっと声を上げた。

「すっげー!真郷超うまいじゃん!」

夏哉に揺さぶられて、真郷は我に返った。

一番驚いていたのは当の本人だ。まさか景品がとれるとは思っていなかった。

「はいよ坊っちゃん。連続で当てられて、おっちゃんもビックリだ」

「あ、ありがとうございます」

当てたクマのぬいぐるみを受け取ると、真郷はそれを小夜子に差し出した。


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