恋のはじめ



だが、咲希の頭は重く、斎藤を視界に入れることはない。



斎藤の小さくため息をつく音が聞こえ、咲希の表情が不安になった。



その時、一瞬胴が浮いたかと思えば、重力ではない何かに持っていかれた。



「あっ・・・」



咲希のか細い声が漏れる。



その何かが分からないほど、咲希も馬鹿ではない。




斎藤の腕にすっぽりと収まった咲希は、みるみる顔面が赤く染まる。




抱きしめられている状態になってしまっている咲希の頭は若干混乱気味で、力ずくで引き離せるような軽いものではなかった。



「さ、斎藤一・・・・離せ・・・」



だが、斎藤の抱きしめる力は強くなるばかり。



そして、絞り出すような声でこう言った。



「・・・・・・生きててよかった・・・・」




こんな感情的な斎藤を見るのは初めてだ。




咲希はされるがままというように、斎藤に体を預けた。



たった数秒がすごく長く感じる。





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