ワケがありまして、幕末にございます。
スッキリした体を着流しで包み、部屋までの道を頭に浮かべながらヒタヒタと歩く。
もうすぐ部屋に着くハズ、と思ったと同時に微かな匂いが鼻を掠めた。
この匂いは…
「土方?」
匂いの方向へ顔を向ける。
「……」
え、返事ない。
もしかして違う人…
「チッ」
いや間違いない。
このウザさ満点の舌打ちは土方だ。
…だけど問題はそこじゃない。
舌打ちが聞こえたのはまだ数歩先。
そこから大股でこっちに歩いてくる土方。
なんとなく不穏な空気だ。
6歩目で止まり、恐らくアタシを見ているのだろう黒デカは、再び舌打ちをしてアタシの手首を掴んだ。
「歩け」
「は?」
そう言うが早く、土方はどこかに歩き出す。
必然的にアタシも歩き出す。
…何かどす黒いオーラというか…とにかく黒々しい何かが目の前を歩く背中に見えそうだ。