ワケがありまして、幕末にございます。
「意外と、人に移したら早く治るかもしれしれねぇよ?」
…それは、そういう事ですか。
そういう事ですよね。
「ヤダよ、土方が風邪ひいたら看病すんの面倒」
「それが小姓の本来の仕事だろが」
「知るか」
「お前何様だ」
「…俺様?」
「あ?」
フッと闇が更に濃くなり髪が降ってきた。
長く艶やかな黒い髪。
いつもぼさぼさに近くて目にかかっている前髪。
目を開ければ揺れた鋭い瞳がアタシの双眸を捕まえて離れない。
喉が痛い。
呼吸が辛い。
吐かれた熱い吐息はそのまま、冷たい唇に食べられた。