わたしとあなたのありのまま ‥2‥


「ちょっと待て」

 また後ろ襟を引っ掴まれ、前に進めなくなった。
 ムッとして振り返れば、見慣れた不機嫌顔。

「てめ、空気読めよ。
 この場合、照哉と峰子ちゃん、俺とお前だろーが!
 一々説明させんじゃねぇ、めんどくせぇ」


 『峰子ちゃん』とは綾子のこと。
 『峰綾子』だから、『峰子ちゃん』。
 ちっとも巧くないし、面白くもないけれど、田所本人が気に入っているから仕方がない。


 服が伸びると訴えて、後ろ襟を解放してもらい、

「私、空気めちゃくちゃ読めてるし。
 結婚前の男女が二人きりで一夜を共にするなんて、不健全だよ。
 ねぇ?」

 抗議しつつ、ラストで綾子に同意を求めた。
 綾子は、「ううん、そうかもね」と曖昧に返して苦笑する。


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