夏の空~彼の背中を追い掛けて~
廊下で紀香の姿を見付けたけど、私は何とも言えない母の雰囲気に声も掛けられず、ビクビクしながら病院を後にした。
家に着くまでの約30分間、俊ちゃんの事を色々聞かれ、ウンザリする位妊娠した事を責められた。
覚悟はしていたけれど、精神的ダメージは計り知れない。
病院の先生が『追い詰めるような事はしないように』と言ってたのに、母は何とも思っていない。
もう分かったから…放っといて。
お願いだから1人にして…。
心を閉ざしそうになった私の耳に、思いがけない言葉が届いた。
「お父さんには私から上手く話してあげるから、後で自分の口からも妊娠の事伝えなさい」
「えっ!?」
「私だって母親よ?子供を亡くした親の気持ちも、忘れ形見に会いたい気持ちも分かるから」
普段は感じる事のない母の優しさが、グッと心に染み渡る。
「お母さん…有り難う」
私は込み上げてくる涙を堪え、帰路に着いた。
「ただいまー」
父に声だけを掛け、私はそそくさと自室に籠り、子機を片手に紀香の自宅番号を押した。
だけど留守なのか、誰も電話に出ない。
どうしよう…。