夏の空~彼の背中を追い掛けて~
「いいえ、何ともありません」
「そうですか。先程の痛みは、目の前で大切な方が亡くなった事によるショックからだったようですね」
「それじゃぁ、流産の心配は無いんですか?」
「今の所、その心配は有りません。ですが頻繁に痛むようなら、流産する可能性もあります」
えっ!?
「不安にならなくても大丈夫ですよ。精神的なモノによる痛みなので、余り深く考え込まず穏やかに過ごして下さい」
先生は安心させるように柔らかい口調で私に接し、それから母とお義母さんへ向き直る。
「色々と事情があるでしょうが、真弥さんを精神的に追い詰めるような事は避けてあげて下さいね。もう痛みはないようなので、帰宅されて大丈夫ですよ」
フワッと笑みを溢し、先生は処置室を出て行った。
「お母様、真弥さん。もっと色々とお話しをしたいのですが、これから俊介の葬儀の準備をしなければいけけません。落ち着いたら、改めてご挨拶に伺いますので、本日はお先に失礼させて頂きます」
お義母さんは、申し訳なさそうに深々と頭を下げる。
「篠栗さんのお気持ちは良く分かりましたので、それだけで十分です。産まれたら是非、会いに来てあげて下さい」
母が病院へ来て、初めて穏やかな表情を見せた。
「有…り難うございます…。有り難うございます」
何度も何度も頭を下げ、目に涙を浮かべたまま、お義母さんは静かに処置室を後にした。
「真弥、帰るよ」
喜怒哀楽が激しい母の口調は、先程に比べて声のトーンも低く、まだ怒っているように感じる。