夏の空~彼の背中を追い掛けて~


「直方さん、運転するの久し振りでしょ?1度コースを走るから…」



そう言うと、教官は静かに車を発進させた。



「ここは直方さんが苦手とするポイントだね」



「はい…」



「じゃぁこのまま次のコースへ行くよ」



「はい…」



いつもはどうでも良い話しや、冗談ばかり言う教官が、今日は必要最低限の会話しかしない。



初めは『何故?』『今日はどうしたのかな?』と思っていたけど、時間と共に分かってきた。



それは教官の気遣いだと。



精神状態が不安定で、運転経験も少ない私がハンドルを握り、路上を走るのは危険。



それを分かっているから、私の気持ちを落ち着かせる為に、教官はこう言う方法を取ったのだ。



『先生、有り難うございます』と言いたいのに、言うタイミングが掴めないまま、車は自動車学校へと帰り着いた。



それから少し休憩をして路上教習を受けたけど、約1ヶ月間休んでいたこともあり、運転感覚が鈍っている。



その為、間近に迫っていた卒検は日延べとなり、無事に免許を取得したのは2週間後だった。



これで卒業式までの10日間は、一足早い春休み。



ヤッタね♪と喜びたい所だけど、6ヶ月目に入っているお腹は日に日に膨らみを増している。



私の小柄な体型に合わせてか、一般的な人に比べるとそれは小さいものの、服装によっては妊婦だと分かってしまう。



なるべく人目を避けて過ごしたい私は、自室に籠りがちになっていた。





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