亡國の孤城 『心の色』(外伝)
青い片思い...(クロエ=サロエ)




―――名を名乗ると、必ず皆、口々にこう返してくる。






それは女の名前ではないか、と。






………認める。女性によくある名前だと認めるが………そんな事言われても仕方無いじゃないか。


名前なんだから。




私の名前は私が決めるものじゃない。


変えられるものなら当の昔にやっているとも。




しかし変えようとすれば、母上が涙ながらに「あげた名前を捨てるだなんて…母が嫌いなのですか貴方は!!」なんて言って喚くのは火を見るよりも明らかだ。



……騒がしいのは嫌いなんだ。


頭痛持ちでね。






しかもファーストネームとファミリーネームが、『クロエ=サロエ』と似ているものだから……気が知れた友人なんかはからかってくる。


「おい、クロサロエ」

「おい、サロエクロエ」

「おい、サロエ。………あ?どっちが名前だっけ?」
















………ムキになって怒るのにも、訂正するのにも、正直…疲れた。苦笑しか浮かべられない。


だからとりあえず、「何かな?」と受けている。







どうしようも無いから、もうどうでもいい。



からかうなら好きにしてくれ。




私は怒りも喜びも悲しみもしないよ。


とりあえず苦笑しておくよ。






























名前で悩む人生。

これからもきっとそうに違いない。




………そう思って諦めていた私の前に………たった一人だけ、違う答えを返してくれた女性がいた。


彼女はその綺麗な笑みを向けて、言ったのだ。























「……素敵な名前ですこと」
< 189 / 258 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop