亡國の孤城 『心の色』(外伝)
そんな歴史に残る大事件のあった夜から、程なくして。
ようやく落ち着きを見せてきた城内だったが、それに伴い誰もが慌ただしく走り回り、眉間にしわを寄せあっていた。
恐らく、皆が頭を悩ませているのは次の新王の事だろう。
世継ぎのためにと婿養子となったクロエには、当たり前だが国王の継承権がある。元々、女の国王では頼りないと考えた52世の命で、クロエはカルレットと結ばれたのだ。
自然、次の国王の座はクロエに与えられるべきなのだが。
「……大臣らの中で、派閥が出来てしまっているようでね…」
苦笑混じりに溜め息を吐くクロエの呟きを、その日別件で城に訪れていたアレクセイは無言で聞いていた。
口にした紅茶のほろ苦さが、じんわりと冷えた身体に染み込んでいく。
「派閥…ですか」
「いつの間にかね。…私か…カルレットか…だそうだよ」
王族の血筋である人間が継ぐべきだとカルレットを推す、伝統を重んじる思想を一部の大臣らが宣言しているらしい。
しかし血筋血筋と言っていても、世継ぎが生まれない、子供が女しかいない…といった問題は古今東西あるもので、直接的に血筋では無い人間が王座につく例は過去にもある。
事実、仕方のない事なのだ。
だが、いつの時代にもそれを良しとしない者達がいるのも、事実である。
「……おかげで、玉座は無人のまま………軽く一ヶ月くらいは決着が着かないんじゃないかな…」
「…派閥など…下らないですな。…クロエ様は、どうお考えで?」
「…………………下らないね」
そう言って肩を竦めて見せると、アレクセイは微笑を浮かべてゆっくりと腰を上げた。
そろそろ屋敷に帰る時間らしい。近頃の彼は、軍人であった頃の空気など微塵も感じさせない程に柔らかくなった気がする。
物腰といい、雰囲気といい、執事が板についてきたのかもしれない。
最近では、仕え先の貴族の嫡男に付きっきりで、えらく養育に熱心な様だ。
「男の子だってね。いくつ?」
「まだ、一歳にございます。とてもやんちゃなお坊ちゃんですよ…」