亡國の孤城 『心の色』(外伝)
たった、一言。
助けを求める彼女は、後ろから回されたクロエの腕にしがみついて。
与えられるその穏やかな彼の体温に一時の安堵を覚えたかの様に。
泣きそうな声を。
クロエは、聞いたのだ。
「―――」
他の人間の。
他の男の名を、クロエは聞いたのだ。
それは、聞き間違いだったのかもしれない。
意味の無い単語だったのかもしれない。
…だが、クロエは……それが名前であり、自分の記憶には無いものであり………自分には踏み込む事の出来ない、彼女の中にいる他の誰かであると、確信した。
知らない名前。
知らない、誰か。
知らない、カルレット。
抱きしめる腕に、力が込められる。
離すまいとこの腕は彼女を捕らえているのに、結局のところ…捕らえることなど出来ないのだと………どこかで諦めている自分がいた。
……カルレット…それは、誰だい?
………君が今、夢の中で縋り付いているのは…誰だい?
………カルレット…………君を救うのは、私では駄目なのかな?
……いや、違う。………君が誰を呼ぼうが、私は構わない。私は、君の過去を知らないのだから。
だから………だから私は、構わない。
ただ、どうすれば…。
「………君を、救えるのかな…」
彼女が呼んだ別の誰かの存在に、クロエは少しの不快感も、苛立ちも、嫉妬も、何一つ抱かなかった。
ただ、自分にはこの美しい人を幸せにしてあげられないのだと……自分自身に嫌悪を抱いた。
助けを求める彼女は、後ろから回されたクロエの腕にしがみついて。
与えられるその穏やかな彼の体温に一時の安堵を覚えたかの様に。
泣きそうな声を。
クロエは、聞いたのだ。
「―――」
他の人間の。
他の男の名を、クロエは聞いたのだ。
それは、聞き間違いだったのかもしれない。
意味の無い単語だったのかもしれない。
…だが、クロエは……それが名前であり、自分の記憶には無いものであり………自分には踏み込む事の出来ない、彼女の中にいる他の誰かであると、確信した。
知らない名前。
知らない、誰か。
知らない、カルレット。
抱きしめる腕に、力が込められる。
離すまいとこの腕は彼女を捕らえているのに、結局のところ…捕らえることなど出来ないのだと………どこかで諦めている自分がいた。
……カルレット…それは、誰だい?
………君が今、夢の中で縋り付いているのは…誰だい?
………カルレット…………君を救うのは、私では駄目なのかな?
……いや、違う。………君が誰を呼ぼうが、私は構わない。私は、君の過去を知らないのだから。
だから………だから私は、構わない。
ただ、どうすれば…。
「………君を、救えるのかな…」
彼女が呼んだ別の誰かの存在に、クロエは少しの不快感も、苛立ちも、嫉妬も、何一つ抱かなかった。
ただ、自分にはこの美しい人を幸せにしてあげられないのだと……自分自身に嫌悪を抱いた。