亡國の孤城 『心の色』(外伝)
クロエが次期国王と決まった話は、その日の間であっという間に広がった。
…とは言っても、既知であるのは城内の者達だけで民衆にはまだふせたままだ。
国民に知らせるのは、戴冠式の日だ。
その戴冠式の準備はやけに慌ただしく、日取りは三日後の朝と随分早くに行われる事となった。
心の準備がどうとか言っている暇も無い。
右から左へ。左から右へと走る召使い達。
見る見るうちに城内がいつも以上に綺麗で上品に飾り付けられていく。
慌ただしい城の様子に、二人の姫君は互いに顔を見合わせては首を傾げる。
カルレットはカルレットで、妊娠の身なのだから安静に!…と、いつも以上に過保護な召使い達に半ば攫われる様に自室に連れて行かれてしまった。
苦笑を浮かべる妻を見送れば、途端にあちこちから大臣達の手がクロエに伸びては引っ張る。
「さあクロエ様!いえ、国王陛下様!」
「…次期、ね」
「そんなことはこの際どうでもよろしいことなのです!ささっ、越権の間へ!戴冠式は伝統あるもので御座います故、歩き方、立ち止まる場所、そのタイミングと全て決まっているのです!」
「大変そうだねー」
「何を他人事の様に仰りますか!全部覚えなければならないのは貴方様なのですよ!当日は全ての貴族が集まります。失敗などありませんように、この私めが骨の髄まで叩き込みます!」
「骨の髄は…痛いよ?」
ズルズルと引き摺られながら人混みをかき分けていく中、大臣の物凄い気合いに満ちた鼻息を聞きながら、クロエはぼんやりとステンドグラスの窓から見える空を眺めていた。
今日も快晴である。
綺麗な青空が広がっていて……本当なら、妻や娘達を連れて散歩でもしたかったのだが…。
(……この様子じゃ、当分は無理かな)
戴冠式の日も、綺麗に晴れていたらいいな。
貴族が集まると言っていたから……もしかすると、アレクセイも来るかもしれない。
現在進行形で彼が世話をしているという、ゲイン侯爵気の一人息子にも会えるかもしれない。
歳はリネットより一つ下だったかな?そういえば名前を知らない。
楽しみだなぁ。