亡國の孤城 『心の色』(外伝)

私は、私の人生を悲観に思う事など無いだろう。
正直、私の人生は操られたものだったのかもしれない。
大きな流れに流された、流木の中の小枝の様に小さなものだったのかもしれない。

しかし私は、私の人生に少しも悔やんだ事は無い。
むしろ、神様に感謝をしなければならない。




私に、クロエという一人の男に……。
こんな綺麗な女性と会わせていただいた運命に、感謝します。
二人の小さな天使の産声を聞かせていただいた運命に、感謝します。
温かい家族の温もりを教えて下さった運命に、感謝します。
美しい妻に新しい命を与えて下さった事を、感謝します。

全ては、カルレットという女性への…私の、片思いから始まったこと。



私の想いは、ずっと片方だけ。
彼女も私を愛してくれた。しかし、彼女は気付いていないだろうけれど……私が想いを寄せるずっと前に、彼女の中には、たった一人の存在があったのだ。

だから私は、私の彼女への気持ちは、ずっと片思い。
それで、構わないのだ。
彼女は、私にたくさんのものをくれたのだから。




しかし神様……私は、私の心から愛するものをこれから先守っていけない事が、何より心残りなのです。


神様、貴方には感謝しきれませんが。
……どうか私のお願いを聞いてください。






最早痛みなのか衝撃なのか分からない大きな波が意識に覆いかぶさると……クロエは、静かに目を閉じた。

溢れた涙が、頬を伝った。


途端に大きくなる娘達の泣き声が、一気に遠くなっていく。
ああ……悔しい。悔しいな。

もう、守ってあげる事が出来なくて。









「……すまない」





< 236 / 258 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop