亡國の孤城 『心の色』(外伝)
一輪の赤...(リネット=ヴァルネーゼ)

「―――…子供向け同然の簡単な言葉を連ね、可愛らしい挿絵を添えた頁を声に出して読み、ケラケラと笑って捲りながらも、幼子はその内容を実際、よく理解出来ずに終わり、本棚に戻してしまう御伽話の絵本。………しかしながら、そんな忘れ去られた御伽話も……物心付き、社会の裏表がチラチラと見える様になってから再び捲って見ると………………お子様に分かりやすく伝えようとする文章の一つ一つに、人間の心理を追究した世の中からの教養というものが見え隠れしている事に気付くのです。………例えば…そう。………『お姫様と三人の王子様』、という何だかありきたりで単純且つ面白みの無い物語。…ある国に、花好きの、絶世の美と財産と地位を持つ姫君がおりました。彼女の夫の座を狙って、三人の王子が求婚をしてきましたが、姫君は死の世界にあるという花を持って来た殿方と結婚する、と無理難題を押しつけました。遠回しに、死ね、と言われているも同然。二人の王子は耐えられず、呆気なくリタイアしましたが……一人の王子だけは、真に愛を貫くために、この課題に挑むのです。………つまり、人間九割五分は私利私欲で出来ていて、清い人間はこれっぽっちにも満たない事の現れなのです。……人なんてそんなもの。いざ秤にかけられると、慌てて逃げ出してしまうどうしようも無い生き物ですわ。……心とは……誠心とは……証明出来ない厄介なもの。結局は行動で示さない限り、真意は見えないのです。………お分かりかしら?………それを踏まえて。……………………さあ、跳ぶの?……跳ばないの?」








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