亡國の孤城 『心の色』(外伝)
そう言って再び踵を返そうとした途端、召使は「違います!」と声を上げた。
「………先程、アベル様が入城されました」
―――パチン、とリネットは無言で扇子を閉じた。
先端のレースを口元にあて、何か考えているのか…しばしだんまりを決め込んでいた。
「………そのアベル様は、今どちらに?」
「…えっと……陛下への謁見を終え、今は一階の応接間にいらっしゃいますが…」
「………………そう…」
…無表情でリネットはくるりと方向転換し、スタスタと螺旋階段へと向かって行った。
そしてそのまま、階下へ降りて行く。
………そんな彼女の細い後ろ姿をぼんやりと眺めていた召使だったが………不意打ちの様に、リネットの鋭い声が掛かった。
「……濃ゆめのダージリンを二つ、持って来てちょうだいな」
「―――は、はい!」
「それと………」
ちらりと召使に目をやるリネットは………不敵な笑みを浮かべていた。
「―――私の部屋から、チェスも一緒に」