- π PI Ⅱ -【BL】


びっくりして、目をまばたくと―――


「だよなぁ。俺だって男だし、まったくそうゆう欲がないとは言い切れないし」


でもさ


桐ヶ谷はグラスを見つめて目を細めて続けた。口には笑みが浮かんでいたが、その笑みはどこか物悲しそうだった。


「お前そうゆう話ししたとき、周り気にしたろ?」


言われて、俺は頷いた。


桐ヶ谷が振り返り、その顔にはやっぱり寂しそうな…悲しそうな表情が浮かんでいた。


「そうゆうことだよ。俺たちは普通の夫婦じゃない。お前がしてるのも普通の恋愛じゃない。


ただのおふざけの会話だって、一々周りを気にしなければならない」




―――…それって寂しいことじゃない?




そう締めくくって、桐ヶ谷は何でもないようなふりでグラスを取った。


俺は目をまばたいて桐ヶ谷を見つめたが、桐ヶ谷は普通に戻ってグラスを傾けている。


左手薬指にはめられたリングが、グラスの持ち手に当たって、カチリと冷たい音を立てる。


俺には―――その音が




やけにはっきりと聞こえた。




―――


それから一体何杯飲んだのだろう。


あれから俺たちは普通の世間話なんかをしていたが、お互いやけにハイピッチだった。


そう、俺たちはマイノリティだ。


それがいけないことだとは思わないが、気持ちいいものだと思う人間なんていないだろう。


子孫を残すこともできなければ―――…家族だって悲しませることになる。


桐ヶ谷の楽しそうな横顔は


「今ならまだ引き返せる。今のうちだ」と物語っているようだった。


俺は胸に滞るもやもやを飲み込むように、アルコールを喉に通した。


―――「久々、酔っ払ったぁ」


と桐ヶ谷が両手を挙げ、夜道を歩く。何だかハイテンションで楽しそうだ。


俺はその隣をのんびりと歩いた。


淡い月の光に照らし出された、桐ヶ谷の白い横顔が―――ほんのりピンク色に染まっていて…





やっぱり―――きれいだった。





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