- π PI Ⅱ -【BL】
―――…なんて冷静に考えてる場合じゃない!
これってラブハプニング!?占いで言ってた急接近!?
こ、このチャンスをものにしなければ!
「……桐ヶ谷」
桐ヶ谷の二の腕を掴む手に力を入れ、俺は真剣に桐ヶ谷を見つめた。
桐ヶ谷がちょっと驚いたように目を開いて、それでもきゅっと唇を結び俺を押しのけようとする。
酔いが回っているだろうが、きっちり線引きしたような態度に少しだけ苛立った。
「…知ってンだろ?俺が浮気をしない主義だって」
低く言われて、アルコールが回った頭に、さらに熱がこもって熱くなった。
ああ、知ってる。こいつが相手に対して切実で、一途であることを―――
「離してくれ」
そう言われても俺は腕にこめた力を緩めなかった。
「離せよ!」
桐ヶ谷が怒鳴り声を上げて、俺の脳内を沸騰しそうな血が駆け巡る。
何故俺はこんなにも桐ヶ谷を求めるのだろうか。
俺は何故こうまでして桐ヶ谷が欲しいのだろうか
何故―――
こんなにも激しい……まるで、獣のような欲に駆られ、体中の血が煮えたぎっていくように熱い。
あのときと一緒だ。あの夜、桐ヶ谷の無防備な寝顔を見つめていた―――あのときと―――…
だけどあのとき俺は俺自身の気持ちに気づいてなかったし、桐ヶ谷とも単なる友人同士だった。
変えたのは俺。
不変的な関係を望んでいたのに―――言わずにはいられなかった。
「三好!やめろっ」
桐ヶ谷の声を遠くで聞いた。
「達矢だ―――…俺の名前は達矢。俺の名前を呼べよ―――!」
怒りにも似た衝動で、俺は桐ヶ谷に顔を近づけた。
目を閉じる瞬間―――桐ヶ谷の…怒りというよりも、悲しみというよりも―――ひどく怯えたような表情が視界に映り、
それでも俺は強引に桐ヶ谷の頭を掴んで、引き寄せた。