- π PI Ⅱ -【BL】
「今日は俺家に帰るよ。昨日は泊めてくれてサンキュな♪」
笑顔で軽く手を上げると、
「おぅ!喧嘩したらいつでもこいよな」
なんて三好はにししと笑った。
そうそうそんな事態にはなりたくないな、なんて前を向き俺はぎくりとして立ち止まった。
ロビーの太い柱にすらりと高い身長を預けて、周が腕組みをしていたからだ。
「……相変わらず神出鬼没なヤツ」
ぽつりと漏らして、俺は周の元へ歩いていった。
周はいつものように爽やかな笑顔を浮かべていなかった。かといって不機嫌そうでもない。
温度のない無表情で―――こちらを見据えていた。
はじめて見る表情に俺の体が強張る。嗅ぎなれているはずの周の香りが、急に違う香りに思えて違和感を覚えた。
「どうしてケータイの電源を切ってた」
開口一番にそう言われて、俺が目を開いた。
決して声を荒げていないのに、言い訳を一切許されない強い口調。
「…どうしてって、俺だって怒ってるんだよ」
俺の気持ちは無視かよ。何で怒ってるのかちょっとは考えろよ。
苛々としながら、それでもそれ以上の反論はできなかった。
俺が何とか答えると、周は目を細めて三好の戻っていった方を見やる。
「昨日はあの男のところに泊ったのか?」
声のトーンが一段と低くなって、まるで射るように俺を見る。
俺は―――…こんな周を知らない。
「三好?あ……うん。偶然会って、事情を話したら泊めてくれるって…」
俺がそう言い切らないうちに、周は強引に俺の腕を掴み柱に押し付けた。