Hamal -夜明け前のゆくえ-
「なんで……僕、話したことないよね?」
「これからは背後に気を付けて帰るんだな」
顔だけ振り返った祠稀はにやりと口の端を上げる。
まさか、あとをつけられていたってこと?
なんのために、と思ったけれど僕が住む場所を知っていた理由には納得した。
でもこれからは本当に気をつけよう。祠稀ならいいけど、たとえばクロには知られたくないし……。
「鍵は?」
「え? あ、閉められてはないと思うけど」
数歩遅れて外階段を上りきり、2階の真ん中に位置する戸口を見遣る。と、祠稀が遠慮もなくそれを開けた。
僕は驚きすぎて声が出ず、
「おじゃましまーす」
と戸口の先へ体を滑り込ませた祠稀のことさえ見ていただけだった。その間わずか数秒。
「なにして……、祠稀っ」
大急ぎで閉まりかけた戸口を引き開ける。
祠稀はブーツを脱いで家に入るところだった。居間から、義父が怪訝な顔を出していた。
「深夜にすんません。今日泊まらせてもらいますんで」
どんな顔をして言ったのか窺えないが、僕に見向いた祠稀は「タオル」と偉そうな口調と表情で言い、居間へ向かった。
僕はちらりと義父を見遣ったけれど目が合うことはなく、タオルを取りに行った。