Hamal -夜明け前のゆくえ-
「顔はやめてっ!」
それは些細な反抗であり、防御だった。
隠しきれない顔に傷を負って、また閉じ込められるのはご免だという気持ちから出た言葉だった。
側頭部に打撃を受けても胸倉は掴まれたままで、僕はただのサンドバックと化する。
拳を打ち付けられるたび、どうして、と考える。
テレビ画面から目を離さない母さんを視界に捉えるたび、どうして、と繰り返す。
“顔は”やめて。
それは本当に、今にも崩壊しそうな自分の心を守るための、ごく小さな抵抗だったのに。
いつだって守った分以上に傷付けられて、僕の心はすり減るばかりだ。
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『やめて。お願いだから、もうやめて』
懇願したって聞き入れてもらえるわけがないと知っていた。
代わりに零れる涙さえ、ふたりには見えないものだと知っていた。
――早く。早く。僕を、外に出して。
最近、そう思いながら義父の気が済むまで脳裏に残照が彩る街並みを描く。
あの空間は、あの箱は、ずっと薄暗くて嫌だ。
湿っぽい空気が喉にまとわりつくようで、息苦しい。
無重量に思えた心身は、2日も経てば元に戻ってしまった。だからまた一場の空を、街並みを、思い描くのに。
追い出されたときにはいつも、ありふれた外灯の明かりだけがそこにあった。