Hamal -夜明け前のゆくえ-
邪魔されたなんて思ってない。
意味などなかった。飛び降りようなんて思っていたわけじゃなかった。
だけどなんでもいいから掴みたかったものは、考え直せば死への切符だった。
幾度も手に入れかけたそれは、言葉通り繰り返し手放したもの。
「これでいいか?」
そう聞いて来る前に溜め息をひとつ零した祠稀を見る。解かれたループタイがシュッと音を立て、襟から外される。
撫でるように首筋へ回された触覚には覚えがあった。
だから――いや、きっと今この瞬間は、祠稀のせいで僕の全身は硬く張ったんだと思う。
「痛いのは嫌だろ?」
粗末な髪型の下から覗く左目。それは僕を映しているけれど、間違いなく“見ているだけ”だった。
興味もなければ、一抹の同情もなかった。
……どうでもいい。
僕が死のうが生きようが、祠稀にとっては、どうでもいい。
「もう……やった」
「あ? なに、が」
ループタイの両端を持つ祠稀の手首を掴み、下ろす。
――めずらしくもない。
記憶も定かではない頃から、母さんとふたりきり。
小学6年生の時に新しい父親ができた。どこにでもいそうな普通のサラリーマンは、酒癖が悪かっただけの話。
言葉にすると、なんて簡単なんだろうと思う。ありきたりなそれで形成される説明は、ものの数分で終わってしまう。